現在はどうなのかわからないが、その当時の歌舞伎町では必ずと言っていいほど、キャッチが僕らの
行くところ行くところで声を掛けてきた。
それも何故か声を掛けられるのは、決まって僕ばかり。
「お兄さん可愛い子いますよ」とか「今ならお安くしますよ」などなど。
いつもの事なので、僕は当たり障りのない程度に
「ごめんね、もう帰るので」と判で押したように答えるだけ。
ところが、ある時耳慣れない言葉を掛けられた。
「お兄さん今は自衛隊パブですよ。自衛隊パブいかがですか、凄いですよ」
二度見するとはよくある事だが、迂闊にも僕は二度聞してしまったのである
「自、自衛隊パブ???凄い?何処が凄いんだ?」
「ほふく前進出来ます!」ドヤ顔で答えるキャッチ。
「はっ、何のこっちゃ?」僕の頭の中は、クエスチョンマークで溢れかえっていた。
迂闊にも立ち止まった上、前のめりでさらに質問してしまった。
「ほふく前進するとどうなるの?」
「それはいらしてからのお楽しみ」笑顔で答えるキャッチ。
普通は、こうなるとキャッチの思う壺である。
だが僕には、学習能力があった。
はるか昔に似たような苦い経験をしていたのである。
その経験があったお陰で、僕は後ろ髪ひかれながらも、その場を離れる事が出来た。
しかし、自衛隊パブというものの実態がいかがなものなのか、もっと詳しく聞いておけば良かったと今でも後悔している。
ここまでが、この物語のプロローグである。
次号ではその苦い経験をお話しさせていただくことにする。